先日、ジャーナリストの立花隆氏死去が報じられました。某月刊誌掲載の「田中角栄研究」が、綿密な資料調査に基づくジャーナリズムの金字塔と評され、時の首相をその絶頂期に退陣へと追い込んだ実績はつとに有名です。それがために脅迫や暗殺の危険にも晒されますが、クリスチャンのご両親から教えられた、「からだを殺しても、たましいを殺せない者たちを恐れてはいけません。むしろ、たましいもからだもゲヘナで滅ぼすことができる方を恐れなさい」(マタイ10:28)のみことばに支えられて乗り切ったとのこと。ご本人の信仰は定かでなくとも、ちょっと嬉しいエピソードです。

 立花氏の著書で最初に読んだのは『宇宙からの帰還』(1982年)、ちょうど大学を卒業して社会人一年目の時でした。誰かに貸したままで今は手元にないのですが、著者への追悼を込め、文庫で買い直そうかとも思っています。人類初の月面着陸が小学4年生の夏休み初日だったアポロ世代の落とし子としては、沈着冷静かつ華麗なる宇宙飛行士たちが、宇宙から地球を眺めることで、どのような精神的変化を経験したのか、興味は尽きません。あの1970年大阪万博で、アポロ11号が持ち帰った月の石を間近で目撃し、大気圏突入で焦げ跡生々しいアポロ8号の司令船実物に手で触った経験が、天文少年への第一歩となったことはほぼ間違いないでしょう。クラスのみんなが天文少年少女だったのです。

 人類の歴史を変えた写真の代表にいつも取り上げられるのは、このアポロ8号の乗組員(ボーマン、ラベル、アンダースと、すぐに名前をそらんじられます!)が1968年のクリスマスイブに、創世記1章のみことばを生中継で朗読しつつ、月の周回軌道上から撮影した「地球の出」です。荒涼とした月の地平線上から、青く欠けた地球が昇ってきたワンショットは、人類が初めて見た地球の全景でした。ガガーリン以来、それまでの有人宇宙飛行はすべて地球から数百kmの地球周回軌道上でしたから、地球の引力圏を脱して月に向かい、月の周回軌道に入って38万kmの彼方から人類が地球を眺めたのは、アポロ8号の三人が最初だったのです。

The iconic “Earthrise” image taken by astronaut Bill Anders on Apollo 8 on Christmas Eve 1968. Friday marked the 50th anniversary of the Apollo 8 liftoff.

 地球に帰還して数年後のビル・アンダースのことばです。「月の周りを飛んで、月をつぶさに観察できるよう、私は何年も厳しい訓練を受けた。それがミッションのすべてと考えていたからだ。だが、地球に戻ってから、自分たちが宇宙でずっと大事なものを見つけていたことに気づいた。それは地球だ。地球の環境保護活動には、アポロのミッションがかなり大きな影響を与えていると思う。それだけでも、アポロ計画に費やした数百億ドルという比較的少ない金額の価値があるはずだ」(ピアーズ・ビゾニー『MOONSHOTS』(玄光社、2019年)、72頁)。

 次に人類が地球の全景を宇宙から眺めるのが何時になるのかわかりません(ちなみに世界の大富豪が一人30億円を支払って宇宙旅行に出発する時が近づいているようですが、地球の全景はとても見られません)。数年の内にまた月へ人類を送り込む計画が、複数の国で進んでいるとも聞いていますし、火星への有人飛行も2030年までには可能となるでしょう。私たち一般庶民が宇宙から地球全景を眺めることはまず不可能。でも、聖契神学校の屋上で星を眺めていると、自分が今ここに立っている現実を宇宙大のスケールで客観的に捉えることが出来るようにもなります。詩篇8篇でダビデが詠んだ心境ですね。「人とは何ものなのでしょう。あなたが心に留められるとは。人の子とはいったい何ものなのでしょう。あなたが顧みてくださるとは」(詩篇8:4)。

『宇宙からの帰還』で印象的なのは、アポロ15号で月面を歩いたジェームズ・アーウィン飛行士が、NASAを退職後、キリスト教伝道者になったくだりです。受洗後3年でこれを読んだ時、深い感動を覚えたことを思い返します。それほどに、宇宙体験とは人生を変えるものであったということ。神学校屋上での宇宙体験が、そのかけらでも味わう機会となるなら嬉しいです。神学校で何を教わったかは忘れても、望遠鏡で土星を観た、月のクレーターを観た、仲間と暗闇で語り合った経験は忘れ難く残るはず。早くコロナが終息しないか、待ちわびています。